木曜日20時、不定期更新。 小説、映画について書きます。 推理小説中心です。

小説

『やし酒飲み』、構造はシンプル。あの世に行って帰ってくる話

アフリカの日々/やし酒飲み (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-8) 作者:イサク・ディネセン,エイモス・チュツオーラ 発売日: 2008/06/11 メディア: 単行本 『やし酒飲み』、アフリカ文学。1946年。支離滅裂な話なのかと思っていたのだけれど、かなりしっか…

苦しみの出口を探す

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本) 作者:チョ・ナムジュ 発売日: 2018/12/07 メディア: 単行本(ソフトカバー) ハリウッド映画のような、エンターテインメント作品ならば、最初に問題の提示があり、主人公の選択があり、冒険があり、どん底を経験するが、…

テレビドラマ(推理もの)のフォーマットを考える

1月から3月は何本かテレビドラマを観た。「テセウスの船」と「アリバイ崩し承ります」にはかっちりとしたフォーマットがあることに気づいた。水戸黄門において「印籠を出して事件解決」というような毎回決まりの流れがある。 【Amazon.co.jp限定】アリバイ…

みんなが優しい世界で

線は、僕を描く 作者:砥上 裕將 発売日: 2019/06/27 メディア: 単行本(ソフトカバー) とにかく周りにいるみんなが優しい。それが印象に残る物語だった。 両親を亡くし、心に傷を負った主人公の再生の物語である。悲しい体験をした主人公は、心が沈んでいる…

テンションは右肩上がり

七つの魔剣が支配する (電撃文庫) 作者:宇野 朴人 出版社/メーカー: KADOKAWA 発売日: 2018/10/07 メディア: Kindle版 読みながら、荒木飛呂彦さんの漫画術を思い出した。 荒木飛呂彦の漫画術 (集英社新書) 作者:荒木 飛呂彦 出版社/メーカー: 集英社 発売日…

私たちは善良になれるか

三連の殺意 (マグノリアブックス) 作者:カリン・スローター 出版社/メーカー: オークラ出版 発売日: 2016/02/25 メディア: 文庫 たとえどんな理由があろうとも、他人を踏み付けにしたり、殺したりしていいことにはならない。そんな大原則が堂々と描かれた作…

信用とは裏切られてもいいと思うこと

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社文庫) 作者:西尾 維新 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2008/04/15 メディア: 文庫 西尾維新さんのデビュー作。天才たちが集められたとある島で、殺人が起きる物語。主人公のセリフ、「ぼくは嘘つきだ」が…

自由って本当に大事なの?

セロトニン 作者:ミシェル・ウエルベック 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2019/09/26 メディア: 単行本 自由であることは素晴らしい。何物にも縛られることなく自由に選択することで、私たちは本当の人生を生きることができる。自由は私たちを幸福に…

現在価値を計算する

ロング・グッドバイ (ハヤカワ・ミステリ文庫 チ 1-11) 作者:レイモンド・チャンドラー 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2010/09/09 メディア: 文庫 「ロング・グッドバイ」の中にお金の話をするシーンがいくつかある。例えば、マーロウはレノックスから5…

結末を想像する

NHK 100分 de 名著 ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』 2019年 12月 [雑誌] (NHKテキスト) 作者: 出版社/メーカー: NHK出版 発売日: 2019/11/25 メディア: Kindle版 ドストエフスキーの小説には「笑い」の要素があると感じていたが、その…

絶望的な状況で感じる解放感

屍人荘の殺人 屍人荘の殺人シリーズ 作者:今村 昌弘 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2017/10/12 メディア: Kindle版 物語のエッセンスとして主人公の震災体験が生きているところに今っぽさを感じた。葉村、明智、比留子の三角関係が最後まで縦筋として…

異能力を描く

光の帝国 常野物語 (集英社文庫) 作者: 恩田陸 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2000/09/20 メディア: 文庫 購入: 6人 クリック: 65回 この商品を含むブログ (327件) を見る 漫画や小説でおなじみの、特別な力を持った人々の姿が描かれる。 少年漫画ならそ…

100という数字の偉大さ

ヴェールドマン仮説 作者: 西尾維新 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2019/07/31 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 本書は西尾維新さんの100冊目の小説なのだそうだ。巻末にリストがついていて、今までの作品のタイトルが分かるようになってい…

ガープの目を通して、この世界を見ると

ガープの世界〈上〉 (新潮文庫) 作者: ジョンアーヴィング,筒井正明 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1988/10/28 メディア: 文庫 購入: 6人 クリック: 73回 この商品を含むブログ (96件) を見る ジョン・アーヴィングの作品。小説家、ガープの一生について…

自分の目を信じきれるか

プラネタリウムの外側 (ハヤカワ文庫JA) 作者: 早瀬耕 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2018/03/20 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (1件) を見る 昔、伊坂幸太郎さんの「ラッシュライフ」を見たとき、表紙にエッシャーの絵が描いてあって、「なるほ…

失われた過去を、未来へとつなぐ

舞踏会へ向かう三人の農夫 上 (河出文庫) 作者: リチャード・パワーズ,柴田元幸 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2018/07/05 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る 三本の物語が語られていく。一つは、「三人の農夫」の写真を見た男の話、もう…

「運命」とは人智の及ばぬもの

未必のマクベス (ハヤカワ文庫JA) 作者: 早瀬耕 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2017/09/21 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (2件) を見る あらすじをみると、「恋愛小説」「犯罪小説」というワードが並んでいる。なるほど、マクベスのギミックを仕…

完璧すぎる悪人

バーニング 劇場版(字幕版) 発売日: 2019/08/07 メディア: Prime Video この商品を含むブログを見る 村上春樹の短編小説「納屋を焼く」が原作の映画だ。現在の韓国を舞台に、寡黙で貧しい主人公・ジョンス、薄笑いを浮かべる金持ち・ベン、美しく不思議な感…

科学が世界を変える

三体 作者: 劉慈欣,立原透耶,大森望,光吉さくら,ワンチャイ 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2019/07/04 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 最初に驚かされたのはその発行部数だ。2100万冊も刷られて市場に出回っているらいし。本書は、文…

日本のいま、希望と絶望

コンビニ人間 (文春文庫) 作者: 村田沙耶香 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2018/09/04 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (8件) を見る とても楽しく読んだ。登場人物や舞台に、2010年代後半の日本の今が浮き彫りにされている。さらに、様々な解…

どん底に落ちた魂を救済する絵画

楽園のカンヴァス (新潮文庫) 作者: 原田マハ 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2014/06/27 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (37件) を見る ティム・ブラウンよりも織江に感情移入して読んだ。 ティムの目線でアンリ・ルソーの謎に迫っていく。ティムの…

本当に欲しいものは、友達

かがみの孤城 作者: 辻村深月 出版社/メーカー: ポプラ社 発売日: 2017/05/11 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (25件) を見る 少年少女たちの距離の縮め方が絶妙。城に集められた子供たちは人と人との関係をうまく結ぶことができない。その一歩を踏み…

腐敗した組織でいかに生きるか

新装版 ホワイト・ジャズ (文春文庫) 作者: ジェイムズエルロイ,James Ellroy,佐々田雅子 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2014/06/10 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (9件) を見る 一番印象に残っているのは主人公デイヴィット・クラインが麻薬を…

シンプルだが捕らえにくい構成

「タイタンの妖女」が好きだ。この本には落語の名人芸のような軽妙な語りがある。 しかしその中身は捕まえるのが難しい。最初、これは何について書こうとしている小説なのかがわからなかった。宗教、戦争などの巨大なテーマ。それに翻弄される小さな個人。悪…