木曜日20時、不定期更新。 小説、映画について書きます。 推理小説中心です。

科学が世界を変える

 

三体

三体

 

 最初に驚かされたのはその発行部数だ。2100万冊も刷られて市場に出回っているらいし。本書は、文化大革命、宇宙物理学、三体問題などの、歴史、物理学、数学(と宇宙人)が渾然となっている物語である。古典的な香りのするSFだ。

 

SFでいいな、と思うところは、科学の力を強く信じているところだ。SF小説の中で、科学は物語を支える屋台骨だ。世の中を良い方にも悪い方にも変えてしまう危険で魅力的な装置である。その世界で人間のできることはそれほど多くはない。巨大な力によって翻弄される、愚かな人間たちの姿が描かれる。

 

「三体」を貫く価値観は、人間中心主義ではない。人間の命を守ることは大切なんていう倫理性とか、主人公が悩み抜いた末に選んだものが世界を変えるはずだなんて信念は、なんの役にも立たなかったりする。しかし、その決断に到るまでの人間たちのドロドロした心理が描かれる。科学という装置を使って、徹底的に人間を観察し、描こうとするのがSFの良さだ。「三体」はそういったSFの味わいが、凝縮した作品である。