『女には向かない職業』、キャリア一年目の新人を応援したくなる
探偵小説。1972年。主な舞台はイギリス、ケンブリッジ。ロンドンとケンブリッジを行き来する。位置関係はこんな感じ。
主人公はコーデリア・グレイ、22歳。冒頭、いきなり探偵事務所の共同経営者だったバーニイ・プライドが自殺してしまう。バーニイは不治の病に冒されていたのである。
十分な蓄えのないコーデリアは、事務所を続けるか、畳むかの選択を迫られる中、バーニイが生前、受けていた仕事の依頼人がやってくる。コーデリアは話の流れで、その依頼を引き継ぐことになる。
物語の流れは追いやすい。コーデリアは読者にきちんと捜査方針を開示してくれるし、人間関係は複雑に入り組んでいるわけでもない。事件を隠蔽しようと暗躍する人間は少なめ。どうやら、『女には向かない職業』は、複雑怪奇な謎を解く探偵の冴えではなく、コーデリアの人生のはじまりを応援する物語らしい。
特にそう感じさせるのは、犯人と対峙するシーン。
コーデリアの推理は冴えている。けれど、犯人を最後まで追い詰めることができない。将棋でいうなら、王手はかけたが、結局積まず、逃げられてしまう……みたいな展開なのだ。物証がない。推理=事件解決ではない。どうやって事件を終わらせるか。徹底的に物事を先回りして考えておくのが探偵だ。だが、コーデリアにはまだそこまでの腕がない。何しろコーデリアはド新人。サム・スペードやフィリップ・マーロウ、V.I.ウォーショースキーのような、事件をまとめあげる腕はまだ彼女にはない。
とはいえ、話のテンポは良いので、ぐんぐん読める。人との出会いが、彼女を助けてくれる。そんな幸運を引き寄せることができたのは、バーニイ・プライドのおかげだ。彼の教えがあったから、彼女は謎を解き、真実に肉薄することができた。
その感謝を込めて、彼女はバーニイと立ち上げた仕事を続けていく決心をする。
出会いが人生を変える。そんな物語。