木曜日20時、不定期更新。 小説、映画について書きます。 推理小説中心です。

腐敗した組織でいかに生きるか

 

新装版 ホワイト・ジャズ (文春文庫)

新装版 ホワイト・ジャズ (文春文庫)

 

 一番印象に残っているのは主人公デイヴィット・クラインが麻薬を打たれるシーンだ。数ある暴力シーンの中でもその恐怖は群を抜いているように感じられる。

酩酊した状態で犯罪を犯すように仕向けられ、その動画を取られてしまう。酔いから覚めた自分はそのことを断片的にしか覚えていない。誰がその映像を撮ったのか分からない。だが記録はちゃんと残っている。

自分の意志とは全く関係なく罪を犯しているというのは恐ろしい状況だ。 

セルピコ [DVD]

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 本書を読みながら「セルピコ」のことを思い出した。警察内部の腐敗、麻薬課の描き方からの連想だろう。

 

しかし主人公のポジションは全く違う。「セルピコ」の主人公は、自分の中にある正義と組織との間に葛藤があるが、「ホワイト・ジャズ」の主人公は腐敗した警察組織の内部にいて、なおかつ悪に染まりきっている。その悪党でもある主人公が徹底的に追い詰められ利用され、そこから脱出するためにもがく姿を描くのが「ホワイト・ジャズ」だ。

高潔なセルピコよりも組織の中で汚れきっているデイヴィット・クラインの方が我々に近いのではないかとも思う。(ここまで暴力に塗れてはいないにしろ)直感と好奇心に突き動かされる主人公のあり方が特徴的で、他にはない味わいがある。