木曜日20時、不定期更新。 小説、映画について書きます。 推理小説中心です。

日本のいま、希望と絶望

 

コンビニ人間 (文春文庫)

コンビニ人間 (文春文庫)

 

 とても楽しく読んだ。登場人物や舞台に、2010年代後半の日本の今が浮き彫りにされている。さらに、様々な解釈を重ね合わせることで、多義的な読み方もできる。シンプルな文章であることも、一躍かっているように感じた。

 

まず最初に驚かされたのは、信仰について書かれた本だった、ということだ。この小説では、絶望的な状況下で、何かにすがろうとする人間の心理が描かれる。それは古典的な小説で描かれ続けてきた、普遍的なテーマだ。 

 

また、貧困について描かれた小説でもある。読みながら、角田光代さんの小説を思い出した。仕事をやめて、金に困ったりするところは似ている。けれど、どうも読後感が違った。

 

愛がなんだ (角川文庫)

愛がなんだ (角川文庫)

 

 

まどろむ夜のUFO (講談社文庫)

まどろむ夜のUFO (講談社文庫)

 

 

角田さんの小説の中に登場する人物たちの方が、自由だと感じた。貧しいが、独自の価値観で動いている。その結果、社会とぶつかり合い、困難に追い込まれてしまう。「コンビニ人間」は、ひたすら何かに耐える小説だ。最後の最後まで息苦しさを感じる。最後に少し息がつける感じだ。その違いは、なぜ生まれるのだろう? おそらく、価値観が変わってしまったのだ。「コンビニ人間」の描く人間の姿が、2010年代後半の日本を表している。