木曜日20時、不定期更新。 小説、映画について書きます。 推理小説中心です。

『幻の女』、なんでそんなに人気があるの?

 

 1964年、舞台はニューヨーク。ある男が妻を殺害した容疑で逮捕されてしまう。彼は無罪を主張するが、すべての証拠が、彼が犯人であることを示唆している。彼の無実を証明できるのは、その間、行動をともにしていた女だけだ。

 

けれども、その女は見つからない。女は幻のように姿を消してしまったのである。裁判が終わり、男の死刑が確定。男は刑務所に収監された。新たな証拠が見つからなければ、再審はできない。どうにかして女を見つけ出さなければ、刑が執行されてしまう。

 

追い詰められる男。けれど、男は刑務所の中だ。捜査はできない。だから男は、その捜索を、一番の親友に託すことにした。

 

海外ミステリのランキング上位に入る作品。その要因は大きく三つあると感じた。一つは、とても分かりやすいシンプルな構造をしていること、二つ目はカウントダウンがあること、三つ目は、友情の話であることだ。

 

  • シンプルな構造

話の構造はシンプル。目的は「幻の女」を探すこと。彼女を見つけ出せれば、無罪放免。失敗すれば、死刑。とても分かりやすい。

 

捜査方法も単純。とにかく必要なのは女の証言。だから、その「幻の女」を探すのみだ。他の証言者たちに再度、聞き込みを行い、隠していることを炙り出していく。

 

すると、捜査を続けるうちに、不思議なことが起きる。次々と事件の関係者が死ぬのだ。それは事故なのか、あるいは殺人か。男が無実ならば、真犯人がいるはずだ。その真犯人が暗躍しているのかもしれない!

 

章を追うごとに謎が深まり、混迷を極めていく。けれども、読者が道に迷うことはない。どうすれば事件は解決するのか? そう。「幻の女」だ。女を見つけ出せれば、すべては解決するのだ。

 

 

  • カウントダウン

目次を見ると、死刑執行までのカウントダウンがされている。死刑執行150日前、死刑執行21日前、死刑執行15日前……。そして、死刑執行当日、死刑執行時、死刑執行後1日で物語は終わっている。

 

目次を読むだけで、期待感が高まる。

 

さらに本文を読むと、その目次も効果的に使われていることが分かる。14、13、12日に至っては、本文が一文字も書かれないまま話が進む。何の手がかりも得られずに時間だけが過ぎている。

 

おもしろい表現だ。

 

  • 友情

そして、もう一つの特徴は、この話は、友情の物語であるということだ。

 

事件は二転三転し、驚きの結末を迎える。そうしたミステリとしての読み応えもあるのだけれど、視点を変えると、この話は自分の無実を晴らしたい男と、その男から依頼を受けた親友、二人の物語であったといえる。

 

最後のページを読み終えて振り返れば、この結末に至れたのは、この二人だったからだと言えるし、この二人でなければ、このような結末には決して到達し得なかったと思える。

 

謎と二人の登場人物が見事に融合している。ちりばめられた謎が二人の男を、二人の男の関係が謎を輝かせる。謎と登場人物が互いに響き合っている。

 

  • まとめ

シンプルでありながら、読者をハラハラさせる仕掛けに富む。そして、読み終えた後には、二人の男の関係が心に残る。

 

読みやすさ、分かりやすさ、驚き。様々な点から見て、完成度の高い傑作。高評価に納得。