木曜日20時、不定期更新。 小説、映画について書きます。 推理小説中心です。

苦しみの出口を探す

 

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

 

 ハリウッド映画のような、エンターテインメント作品ならば、最初に問題の提示があり、主人公の選択があり、冒険があり、どん底を経験するが、なんとか立ち上がり、問題を解決し、ハッピーエンドに到達するだろう。

 

「82年生まれ、キム・ジヨン」には最初から出口がない。主人公のキム・ジヨンはある日、現実の出口のなさに気づいてしまう。

 

キム・ジヨンはいやな目にあっても抗議しない。不平不満があっても、ぐっと言葉を呑み込んでしまう。そんな彼女の心の中に、おりのように鬱屈した感情が溜まっていく。それが頂点に達したとき、キム・ジヨンは他人の「声」をかりてその本心を吐露するようになる。その「声」は、キム・ジヨンには知り得ない、亡くなった女性の二十年前のできごとを語ったりするので、病気というよりも、巫女のような、超常的な力だ。

 

本文はカウンセラーによる聞き書きというスタイルで書かれていて、中身の重さに比べて語りの印象が軽い。第三者の少し冷静な目で物事を見つめているからだろう。

 

少し冷たい、距離をとった語りで、キム・ジヨンの体験したエピソードを積み重ねていく。そのエピソードは、1つ1つがキツい。ハッピーなエピソードにも、ちくりと読者の心を刺す、刺が隠れている。それはギリギリいっぱいにたまったコップの水に滴り落ちる水滴だ。いつ溢れてしまうか分からない。それなのに、水滴は止まらない。

 

そのキツさ、生きづらさに、現代を生きる私たちの姿を、どうしても重ねてしまう。

出口はないのだ。