木曜日20時、不定期更新。 小説、映画について書きます。 推理小説中心です。

『血の収穫』、ハードボイルド小説はここから始まる

 

血の収穫【新訳版】 (創元推理文庫)

血の収穫【新訳版】 (創元推理文庫)

 

ハードボイルド小説の代表作を読んでみようと思い、『血の収穫』を手にとった。ハードボイルド小説、黎明期の作品。出版は1929年。世界恐慌が起きた年。昭和4年だ。

 

『血』を読むと、ハードボイルドというジャンル小説の妙味がどこにあるのかが、よく分かる。ハードボイルド小説は、ある種のスーパーヒーローものなのだ。探偵は、類まれな行動力、明晰な頭脳による冴えた推理力、決して折れない鋼の魂を持っている。そのヒーローが、社会の裏側にはびこる悪を倒す。そしてヒーローはその心のうちを明かすことは滅多にない。謎めいている。読者はその姿を外から眺めて楽しむのである。

 

冒頭、読者に対する興味の引き方も独特だ。探偵の元に依頼が持ち込まれる。が、いきなり、依頼人が殺されてしまう。当然、依頼は中止……になるかと思いきや、探偵は引っ込まない。街にはびこる悪党たちと、丁々発止とやりあいながら、事件の真相へとにじり寄っていく。もちろん、きちんと金も稼ぐ。新しい依頼人を見つけ出し、契約を結ぶ。探偵はビジネスだ。ただ働きはしないのである。

 

不可解な事件が起きる度に、探偵は現場に乗り込み、冴えた推理を展開し、絡まった状況を解きほぐしていく。四つの事件、四つの推理。探偵によって、事件の謎が解明される。その構造がとてもシンプルで分かりやすい。

 

冒頭いきなりの依頼人の死、血みどろの殺人、主人公自身が事件に巻き込まれていく様、女との悲しい別れなど、ハードボイルド小説に欠かせない要素がすでに入っている。もちろん、荒いところはたくさんあるのだけれど、原点でありながらかなり完成度の高さに驚かされる。