木曜日20時、不定期更新。 小説、映画について書きます。 推理小説中心です。

『マルタの鷹』、本心を見せないタフな男が、たった一度だけ気持ちを吐露するのが最高

 

 前回に続き、ダシール・ハメットのハードボイルド小説。1930年の小説。『血の収穫』とほぼ同時期の作品。探偵、サミュエル・スペードと、鷹をめぐる物語。

 

依頼人はミス・ワンダリーと名乗る女。彼女の依頼を受けて捜査を開始するが、いきなりトラブル発生。相棒が何者かに殺されてしまう。そして、何を企んでいるのか分からない謎の男たちや、警察がサムの周りをうろつきだし、依頼人の女は姿を消す。事件は混迷を極めていく。

 

プロットは複雑だ。様々な人間が、それぞれの思惑を抱え、動き回る。それらは一見するとバラバラな出来事だ。だが、探偵が悪党の脅迫に屈することなく手がかりを探し、冴えた推理を展開したとき、ひとつの真実が見えてくる。それこそが探偵小説の妙味であり、チャンドラーの『ロンググッド・バイ』やロス・マクドナルドの『さむけ』などにも通じるハードボイルド小説の妙味と言えるだろう。

 

『マルタの鷹』『血の収穫』の二冊を読んだ後の方が、『ロング・グッドバイ』『さむけ』のおもしろさが増したように感じられた。『鷹』や『血』の方が、構造がシンプルである分、ハードボイルド小説と他の推理小説(例えば、シャーロックホームズやブラウン神父のような)との違いを、よりはっきりと識別できる。

 

ハードボイルド小説には、特徴となる展開がいくつかあるようだ。

・主人公は最初、依頼を受けて事件に関わるが、途中で依頼を打ち切られる。だが、新しい依頼人を見つけ、真実を追い続ける。

暴力組織や警察からこれ以上関わるなと警告されるが、屈しない。

・部屋を荒らされたり、殴られたりする。

・愛する者との出会いと、悲しい別れがある。

・弱者に優しい。情に脆い。

・裕福ではない。金に困っている。

・ロマンチック。理想を語る。

・けれど、事件の解決方法は現実的。警察に引き渡し、物事をきちんとおさめる。

etc

 

そうしたポイントを押さえ、他の作品とどう違うかとみていくと、より味わいが増す。 

 

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最後のシーンの、感情的なやりとりはなかなか味わい深い。サム・スペードが本心をこぼすところがある。決して本心を見せなかったタフな男が、最後の最後で、心のうちを晒してしまう。そういうところがロマンチストと呼ばれる由縁なのかもしれない。(現在の視点から見ると、ややマッチョな印象ではあるのだけれど)

 

美しい生き方とは、その態度に現れる。