木曜日20時、不定期更新。 小説、映画について書きます。 推理小説中心です。

時系列をバラバラにする

 

十三機兵防衛圏 - PS4

十三機兵防衛圏 - PS4

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: アトラス
  • 発売日: 2019/11/28
  • メディア: Video Game
 

 かなり入り組んだ物語だった。十三人のプレイヤーを操作し、世界を崩壊させる謎のロボット軍団と自分自身の身に降りかかった謎を明らかにしていくゲームだ。

 

並行で複数のプレイヤーを操作すると物語を追いきれなくなるので、見た目の第一印象とプロローグの印象から自分の主人公を決めることにした。思考が単純そうという理由で、緒方稔二を選ぶ。

 

稔二の物語は「時をかける少女」のような時間を何度も巻き戻るタイム・リープもの。(実は違うのだけれど)如月に対する気持ちがはっきりと提示されるし、感情軸がしっかりしていて分かりやすかった。途中、ストーリーの進行にロックがかかるので、何人かのプレイヤーのシナリオを進めながら、稔二編を終える。

 

そこからはなかなか困難な道のりだった。南、鷹宮の1985年組と比持山、三浦の1945年組は比較的とっつきやすかったが、2025年組と2065年組はかなり複雑だ。

 

記憶が混乱している人がたくさん出てきて、物語の方向を何度も見失いそうになる。そもそもどうやって問題を解決すればいいのか、その糸口すら掴めないまま物語は進行していく。

 

設定も特殊だ。機兵、ダイモス、時間移動、記憶喪失、同じ名前の人間、挿入される2188年のシーン、幻覚、ドロイド、意識だけの存在……複雑に絡まったそれらの糸を、どこから解きほぐせば良いのかがつかめない。その上、語り手がどうも信用できない。記憶がないと言いながら、何かを隠しているようにも見える。感情的につながっていない話も多いし、回想内回想が多用されるため、シーンのつながりを把握するのも難しい。

 

だから、目の前で展開されるシーンをそのまま受け入れるしかない。目の前で起きたことは全て真実である。そう受け止めながら、物語を追いかけていく。けれども、それでも物語の姿は見えてこない。

 

なんとか物語の最後まで辿り着き、事の真相が明かされる。一体、自分の身に何が起きていたのか、そこで初めて理解する。オチは分かった。けれど、エンディングに至ってもまだ感情や行動原理が分からないプレイヤーが何人もいる状態だった。

 

私はこの時、分かっていなかったのだが、この作品の楽しさは、そこから始まるのだった。

 

謎解きモードで断片的につなぎ合わされたシーンを時系列順に並べ直し、読み直す。そうすることで、シーンの意味と、登場する人々の感情が一本の線でつなぎ合わされ、本来の物語の全体像が見えてくる。

 

これが楽しい。

 

そこで私はようやく気がついた。このゲームは小説のように、主人公を通じて世界をみて、体験するのではない。シーンをアイテムのように収集して、つなぎ合わせて楽しむものなのだ。それはブロック遊びにも似ている。

 

作品を俯瞰してみると、複数の物語がレイヤー状に重なり合っていることがわかる。映画でいうと「インセプション」のような構造だ。「インセプション」では現実、夢、夢の中の夢、夢の中の夢でみた夢、という四重の重ね合わせが起きている。夢と現実につながりはない。夢なのだから、つながらないのは当然だ。この作品もシーンのつなぎ方がそれによく似ている。

 

同じ名前、同じ姿、同じ場所のシーンが少しずつ形を変えて描かれる。それらはつながっているように見えるけれど、実は別の物語だったりする。混乱する理由はそこにある。主観的に物語を追いかけても、その違いを見分けることはできない。必要なのは神の視点で物語を俯瞰することだ。

 

私たちは主人公たちと一緒に混乱した夢を見る。夢の中の冒険の果てに目覚め、初めて真実を知る。夢の中にいては、自分が夢を見ているのか、目覚めているのか、知ることはできない。目覚めて初めて、ああそうか、自分は夢を見ていたんだ、と気づくことができる。そこで初めて私たちは登場人物たちと一緒に真実を知る喜びを味わう。そんな体験をさせてくれるゲームなのである。