私たちは善良になれるか
たとえどんな理由があろうとも、他人を踏み付けにしたり、殺したりしていいことにはならない。そんな大原則が堂々と描かれた作品だった。
この物語は犯人と同じような不幸な境遇に生まれた男たちが、悪意に立ち向かう話だ。ウィルは特殊捜査官として社会の秩序を取り戻すため、ジョンは自分の人生を守るために真犯人を追いかける。
その結果、ウィルは掛け替えのない大切なものを失い、ジョンは自分の人生を、わずかばかり取り戻す。
そうは言っても、ジョンの刑務所で失った20年間は取り戻すことができない。最後に果たされるわずかばかりの復讐も、失ったものと釣り合うようなものではない。彼の今後の人生が幸福であることを祈るしかない。
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原作の題名はTriptych(=三面鏡のように蝶番で繋いだ三枚続きの絵画)だ。
この小説は第1部マイケル、第2部ジョン、第3部ウィルと、三部に分けて書かれており、その三人の姿を通して主題が浮かび上がるように付けられたタイトルだと言える。
対して日本語タイトルの「三連の殺意」は、何を指しているのかよく分からなかった。起きた事件の数とも合わない。筋としては連続殺人を追う話ではあるので、それを表現したかったのだろうか。その殺意の解明が、物語のカタルシスにつながるわけではないのだが。日本語タイトルから想起されるイメージと、作品がかなり解離していた。